能装束
能で使われる衣装のことを能装束または能衣装といいます。
華やかな色を何色も使った衣装は見るからに豪華絢爛で、様々な技術が使われ作られています。そこに描かれる様々な文様は、自然と共に生きてきた日本人の美意識の結晶であり、現代でもなお、人々の心をとらえ、日常の中で楽しまれています。ここでは、代表的な能衣装とその文様をご紹介します。
◇ 唐織(からおり)
唐織は、能装束を代表する、豪華な衣装で、能の中では主に女性役の上着として用いられます。「唐織」とは、もともとは中国(唐)から伝えられた装飾性の高い美術織物のことを意味し、綾織地の上に金糸・銀糸や多彩な色糸で絵柄を織り出していく技法のことです。金糸、銀糸をはじめ、さまざまな色鮮やかな糸を使って、草花や文様などが浮いたように立体的に織り出されています。
◇ 縫箔(ぬいはく)
縫箔は唐織と並び、能装束を代表する豪華な衣装です。摺箔は朱子地の上に金・銀箔を糊で貼り付け、模様を表し、さらに刺繍も施します。刺繍は撚 (よ)りのかかっていない絹の平糸が使われ、絹の光沢が生かされた日本独特の刺繍の技法で作られています。シルクの光沢と金箔・銀箔の輝き、そして刺繍の光沢が相まって、美しい世界が表現されています。
◇ 摺箔(すりはく)
絹で織られた手触りが滑らかで光沢がある繻子(しゅす/サテン)の上に型紙を用いて糊を生地の表面に置き、その上に金箔、もしくは銀箔を貼る技法で作られます。金や銀を多く使うため、華やかであり、鎌倉時代後期から能衣装に使われてきました。