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能装束

 能で使われる衣装のことを能装束または能衣装といいます。


 華やかな色を何色も使った衣装は見るからに豪華絢爛で、様々な技術が使われ作られています。そこに描かれる様々な文様は、自然と共に生きてきた日本人の美意識の結晶であり、現代でもなお、人々の心をとらえ、日常の中で楽しまれています。ここでは、代表的な能衣装とその文様をご紹介します。


◇ 唐織(からおり)

 唐織は、能装束を代表する、豪華な衣装で、能の中では主に女性役の上着として用いられます。「唐織」とは、もともとは中国(唐)から伝えられた装飾性の高い美術織物のことを意味し、綾織地の上に金糸・銀糸や多彩な色糸で絵柄を織り出していく技法のことです。金糸、銀糸をはじめ、さまざまな色鮮やかな糸を使って、草花や文様などが浮いたように立体的に織り出されています。

1.扇面
 福を招き、邪悪を避ける扇は、日本の芸能には欠かせないものです。日本では室町時代からご祝儀に扇を贈る習慣があり、儀式の時には扇子を持ちます。扇子は末広がりの形をしていることからも、吉祥文様として、おめでたい柄の一つとされています。「末広がり」とは、その名のとおり、未来が広がっていく、明るいということを意味します。
2.鳳凰
鳳凰は中国古代の伝説上の動物で、名君が出て天下太平の時に現れ、世の中が繁栄すると言われています。鶏のようなとさかと五色の羽と長い尾を持ちます。日本には飛鳥時代に中国から伝来し、正倉院の宝物にも多く見られ、格式高く高貴な文様として尊ばれています。
3.菊水(きくすい)
流水に菊の花を浮かべた文様のことをいいます。菊水文は菊の群生地から流れ出た水を飲むと寿命が伸びるという中国の故事にちなみ、古くから延命長寿のめでたい文様として知られています。

4.秋草文
桔梗(ききょう)、萩、女郎花(おみなえし)、撫子(なでしこ)、葛(くず)、芒(すすき)、藤袴(ふじばかま)の7種類の植物を秋の七草といいます。これに、竜胆(りんどう)や菊など、秋の野原に咲く草花を取り混ぜて文様化したものを、秋草文様といいます。夏が終わり、移ろいゆく時のはかなさや人生の無常観を感じさせてくれる日本ならではの文様です。
5.秋草文
 
6.吹き寄せ
さまざまな落葉や花が風に吹かれて、地面に寄せ集まった様子を文様化し、吹き寄せといい、風景文様のひとつとして愛されてきました。寄せ集められた植物は、紅葉、松葉、松毬(まつかさ)、銀杏(いちょう)などがあり、日本ならではの風情が楽しめます。

7.菊
菊は、長寿を象徴する代表的な植物として愛されてきました。中国の黄河(こうが)源流に有る菊の群生地から流れ出た水を飲んだ里人(さとびと)が延命を得たという「菊水」の伝説や、菊の露が滴(したた)った渓流の水を飲んで長命を得たという能の『菊慈童(きくじどう)』の伝説などがよく知られています。
8.梶の葉
梶は初夏に緑色の花を咲かせる桑科の植物です。葉の形に特長があり、和紙の原料にされるほか、古代から、神に捧げる神木として尊ばれ、神前に供える食物の器の代用として葉が使われてきました。梶の葉は大きいため、葉に願い事や和歌を書いて五色の糸で吊るしたりされ、これは短冊に願い事を書く七夕の風習の元になっているといわれています
9.梅
梅の花はまだ寒い内から、他の花に先駆けて香り高く咲き始めることから、古くから尊ばれ、『万葉集』に多く詠まれ、縁起のいい花として愛好されてきました。また、学問の神様とされる菅原道真(すがわらのみちざね)が「こち吹かば匂いおこせよ梅の花あるじなしとて春をわするな」と詠んだことから、梅の花は道真公の象徴としても知られています。

◇ 縫箔(ぬいはく)

 縫箔は唐織と並び、能装束を代表する豪華な衣装です。摺箔は朱子地の上に金・銀箔を糊で貼り付け、模様を表し、さらに刺繍も施します。刺繍は撚 (よ)りのかかっていない絹の平糸が使われ、絹の光沢が生かされた日本独特の刺繍の技法で作られています。シルクの光沢と金箔・銀箔の輝き、そして刺繍の光沢が相まって、美しい世界が表現されています。

1.貝尽くし
四方を海で囲まれた日本では、豊かな海の恩恵を受けてきました。蛤や帆立貝、さざえなど、その形や色の美しさから、貝は着物の文様としても多く描かれてきました。蛤(はまぐり)などの二枚貝は貝殻が決してほかの貝殻と合わないことから、夫婦円満や貞操の象徴として、婚礼道具の文様にかかせないものでした。
2.面高(おもだか)
面高は水田や池、沼などに自生する多年草で、夏から秋にかけて、3弁の白い花を咲かせます。矢じりに似た葉が槍のようにも見えることから、「勝ち草」として縁起がかつがれ、武家に好まれ、江戸時代には多くの大名や旗本の家紋とされてきました。湿地帯に自生することから、流水と組み合わせて多く描かれています。
3.龍
龍は鳳凰とともに中国から伝わった想像上の霊獣で、おめでたい柄です。龍は天に昇り雲を起こし、恵みの雨を降らせる水神としても信仰を集めていました。

4.蝶(ちょう)
蝶は別名「胡蝶(こちょう)」ともいい、長寿の象徴とされています。蝶は青虫からサナギになり羽が生えた姿へと大きく変化するため、不死のシンボルとして武家の家紋として流行り、特に平家ゆかりの家紋としても有名です。
5.網目(あみめ)
網目文様は曲線を交差させ繋いだ形の文様です。漁師の網の目の形になる事から網目文様と呼ばれるようになりました。簡潔な曲線が美しいとされ、江戸時代に流行し、陶磁器の文様や小紋・手拭に使われました。網打って一網打尽にするように敵を打ち負かすようにと武将の紋にも使われました。
6.幔幕(まんまく)
幔幕とは野外に張り巡らされる幕のことです。幕の中には草花や古典文様などが描かれる華やかな柄です。

7.扇面(せんめん)
扇文・末広文(すえひろもん)とも呼ばれます。形は末広がりなので、吉祥文様とされています。扇面の中に草花など種々の文様を入れることが多いです。
8.鷺(さぎ)
鷺は長い脚、長いくちばしが特徴のほっそりとした姿が美しい鳥で、鶴に似た姿をしています。中国では、鷺は「路」と同じ音を持つため一路連科(いちろれんか)を連想しおめでたい文様とされてきました。
9.帆掛け船(ほかけぶね)
帆船(はんせん)ともいい、帆をかけた船を文様化したものです。遠距離や多量の荷物を運ぶ大型の帆船は、珍しい品物などを運んでくる夢の乗り物でした。こうした帆船は順風を受けて膨らんだ帆を強調して描かれ、未来への希望を感じさせます。

◇ 摺箔(すりはく)

 絹で織られた手触りが滑らかで光沢がある繻子(しゅす/サテン)の上に型紙を用いて糊を生地の表面に置き、その上に金箔、もしくは銀箔を貼る技法で作られます。金や銀を多く使うため、華やかであり、鎌倉時代後期から能衣装に使われてきました。

1.鱗(うろこ)
正三角形または二等辺三角形を連続して配した文様で、魚や蛇の鱗に見立てて名がつけられました。三角の文様は古くから魔物や病を示すものとして使用されました。能では鬼女や蛇の衣装に使われます。
2.鱗(うろこ)
3.宝尽し
宝尽くしは中国に由来する宝物を集めた柄です。打出の小槌(こづち)や隠れ蓑(かくれみの)、如意宝珠(にょいほうじゅ)などが描かれているため、日本では室町時代から、吉祥文(きっしょうもん)として定着しました。